ブックタイトル潮来の昔話と伝説
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潮来の昔話と伝説
方を振り向いたその眼には涙が溢れているようじゃった。しかもその廻りには仔狐が三匹、我が近づいても逃げようともせず、親がら離れようともしないんじゃD その狐はお母さん狐じゃったんじゃな。それでせっせと仔狐達に餌を運んでおったんじゃな。我は一生懸命に畏を外してやり、血止薬を採んで付け、頬かむりの手拭を裂いて巻いてやり、「気をつけて巣に戻るのじゃよ」といって頭をなでてやるとのう、情けは人間並じゃな、眼に涙が光っておってのう口痛む足で後を振り返り振り返り山の中へ消えて行ったんじゃ口このことがあってから、狐のことは気にかけながら忘れるともなく、次第に記憶の外にぼやけてしまうころ、あれは大生殿様の祭りの晩じゃった。お祭りの御馳走とそれに少々お酒を頂いて、役場の宿直をしておった口宵の口から寝てしもうたんじゃ。翌る朝の事じゃ、雨戸を明けてびっ主CVνくりした。入口の所にそれは見事な首の長い青いりっぱな雄雑子が置いであったんじゃ。きじ役場へ出勤して、雑子のことを皆に尋ねたが誰も心当たりがないとのことD そこで考えたんじゃ-50一が、我が酔って眠っておった昨夜あの狐が持って来て呉れたんじゃな、と。我にお札のつもりでせっかく持って来てくれたのに眠っていて申し訳のないことをしたもんじゃと、狐に謝つての。はくせい雑子は剥製にして床の間に飾っておいたんじゃよ。そしてあの雑子を見る度にあれは狐の真心が雑子に姿を変えて、あそこにあるんじゃと思うて、毎日眺めておる口畜生でさえ受けた恩は忘れんのじゃ。ましてや人間と生まれたからには、思を忘れるようなことがあっては大変なことじゃ。acvν貴公達も狐の呉れたあの雑子を見て、畜生に劣るようなことをせんように心がけることじゃなD(大生原)