ブックタイトル潮来の昔話と伝説
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潮来の昔話と伝説
うっそう保養センターの所)まで来て台水原の山道に入った。日中ですら薄暗い欝蒼とした雑木林の中の道を一人で歩く。自分の履いていたせったの音がたびたびとやけに耳に入る口大生神社の入口を過ぎた辺りで真っ暗な道の前方に薄明るく月が見えた。「おかしい、さつきまで月を上にして歩いていたのに」などとも思ったが深く考えられないくらい恐ろしくなり、脇田も振らず先へ進む。二百米も進んだかと思うと、背に何かが覆いかぶさった。興一さんはせったを脱ぎ捨ててはだしで一目散に駆け出した口どこをどう走ったかわからぬが、勘作さん宅にたどり着いた口戸締まりをして寝ている勘作さんの家の戸をどんどんたたくと姉のみささんが起きてきて戸を開け、中に入れてくれた。奥一さんはどうしたの、聞かれてもしばらくは口も聞けなかった。水を一杯もらい、落ち着いてから出来事を話すと、笑って「あそこら辺はむじなが人を脅すことがある。多分それだろう」という。その晩は勘作さんの所に泊まって翌朝帰った。家の人は奥一さんのことを心配していたが、無事だとわかり神事の客の接待の準備に入って、何とか客の来るころに間に合った。その日の客との話題はむじなの話でもちきりであった。当時はどこにでも孤、狸、むじななどは沢山いてそういう話はいくらでもあったものだと奥一さんはいった。戦争も怖かったが、こっちの方が怖かった。(延方)- 63 ー